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医局情報発信コーナー

白衣の羽〜医療の未来への旅〜
2025年09月02日

緩和医療科の活動紹介~ジャーナルクラブ~

カテゴリ: 日々の活動報告

緩和医療科の活動紹介

当科では、毎月1回、研究の進捗報告(Progress Meetingと論文抄読会(Journal Club)を行っています。Journal Clubでは、査読付きでインパクトファクターの高い質の高いジャーナルを中心に、最新の研究論文を読み解き、その内容を医局員同士で共有・議論します。これにより、論文を読む習慣の定着、批判的思考力の育成、発表スキルの向上といった効果を期待しており、特に若手医局員の学びの場として大切にしています。

今回取り上げた論文は、The New England Journal of Medicine(NEJM, 2024に掲載された「Ponsegromab for the Treatment of Cancer Cachexia」です。

ここから、この論文の背景・研究デザイン・結果について、わかりやすくご紹介いたします。

 

研究の背景

がん悪液質(cachexia)は、体重や筋肉量の減少、生活の質の低下を伴う深刻な病態であるが、これまで有効な薬物療法は存在しません。近年、悪液質の進行に関わる因子として GDF-15 が注目されており、Ponsegromab はこのGDF-15を阻害するヒト化モノクローナル抗体です。

研究の概要

  • 対象:悪液質を有しGDF-15高値のがん患者187名
  • 方法:Ponsegromab(100mg、200mg、400mg)またはプラセボを4週ごとに3回投与
  • 評価項目:主要は12週後の体重変化、副次的に食欲・症状・活動性・安全性

主な結果

  • Ponsegromab群では用量依存的に体重増加が認められ、特に400mg群ではプラセボに比べて約2.8kgの有意な増加
  • 食欲、症状、活動量の改善も報告
  • 安全性についても大きな懸念は認められず

結論

Ponsegromabは、がん悪液質に対して 体重増加や食欲・活動性の改善をもたらす有望な治療薬 であることが示されました。今後、大規模臨床試験でのさらなる検証が期待されます。

 

この論文は、厳密な試験デザインにより内的妥当性が高く、対象患者も実臨床に近いため外的妥当性も一定程度確保されています。実際の臨床現場における治療の可能性を十分に感じさせる内容でした。

当科では、このような最新のエビデンスを定期的に取り上げることで、日常診療の質を高めるとともに、がん患者さんの生活の質向上に直結する研究成果をいち早く共有できる体制を整えています。Journal Clubは単なる勉強会にとどまらず、未来の医療を形づくるための実践的な学びの場となっています。

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