「闘う緩和」を
一緒にやりませんか
助教松本 佳祐
入局年 2019年-
緩和医療科を選んだ理由は?
私は初期研修医の時に夜間来院する高齢者や癌難民と呼ばれる患者さんが救急を繰り返し再受診している現場を経験し、緊急性がなく帰宅となった患者さんに対して最低限の対応しかできず無力感を感じていました。私はこういった患者さんに対して予定外の再受診をしなくてもいいように医療を提供し、環境を調整することで患者さんのQOLを高めることにつながると考え、それを主導して実施している緩和医療科の医療の考え方に共感したため緩和医療科に入局しました。
確かに、夜間の救急外来で可能なことは限られており、医療資源も限られています。しかしながら、症状があるから、もしくは困ったことがあるから患者さんは予定外であっても受診するのであって、このような患者さんに適切に介入することで再受診を減らすことができると考えています。また、再受診が減ることは医療費や医療資源の適正分配に寄与すると考えています。埼玉医科大学病院周辺の市町村では高齢化率は35%を超えており、癌、心不全、COPD、神経難病などの病気を複数持ちながら生活する方だけでなく、高齢独居、老々介護の方も増えています。高齢化が進むにつれて、救急搬送数は年々増加し、今後も増加が予想されています。
一方で埼玉県は10万人あたりの医師数が全国最下位で、救急に従事する医師数も全国と比較して多くありません。増加する救急要請に対して再搬送を減らすことは喫緊の課題であると言えます。その中で埼玉医科大学病院緩和医療科は救急科と協力し、救急再搬送のハイリスク患者さんに介入して、患者さんが救急要請を必要としない症状コントロールや環境づくりを実施しています。加えて、救急再搬送の予防を研究テーマを掲げ、現在も研究活動を続けています。
以上から各専門診療科と連携しつつ、救急車を繰り返し要請しなくても安心して生活ができる医療・環境作りを目指し、その術を研究し、患者さんに還元したいと考え緩和医療科に入局をすることを決めました。目標のため救急科も兼担しています。
-
仕事のやりがいを感じる時は?
患者さんが症状が良くなり、患者さんから生活ができるようになりましたと言われた時です。
-
職場の環境はいかがですか?
緩和ケアチームのメディカルスタッフと気軽に相談ができる環境のため、それぞれ異なった職種の視点からの意見が得られやすく多職種連携が実感できるのが特長です。また、科として本人のキャリアパスも重視しており、本人のキャリアパスにあわせて研究内容も設定しています。将来的に行いたい診療科が異なる仲間もおりますが、協力してお互いの研究を進められる環境を構築しています。
-
今後の目標を教えてください
再搬送の予防についての研究がAIや他大学の協力を得て、新たな局面を迎えようとしています。これを機に研究を大きく進展させ、患者さんをはじめ、埼玉県や救急医療に還元したいと考えています。
-
入局希望者に向けて
メッセージをお願いします医療細分化、専門化に伴い、あらゆる病気の治療法は増えました。しかしながら、患者さんの病態は複雑になっていき、一つの職種や診療科では対応しきれなくなっているのが現状です。また、病気に対して根治ができないとわかってからも患者さんの症状との闘いが続きます。緩和は決して消極的な医療ではありません。「闘う緩和」を一緒にやりませんか。
病を取り除き、抑え込み、
上手く付き合うことの
手助けをする
助教新野 捺美
入局年 2022年-
緩和医療科を選んだ理由は?
私は初期研修2年目、自分の来年の研修先について漠然と考え始めた頃に岩瀬先生と出会いました。山形県出身で親戚一同農家ばかりという生い立ちの私にとって、医師というのは「まちのお医者さん」のイメージでした。風邪から腰の痛みからなんでも診てくれて、些細なことでも相談に乗ってくれて、この人がいるから安心、という「まちのお医者さん」。しかしこれが実はどれほど難しいことか、すでに医療に携わっている方々なら容易に想像がつくと思います。たとえば糖尿病と認知症、どちらもありふれた疾患ですが、糖尿病は糖尿病内科、認知症は神経内科や精神科が専門とする領域です。大きな病院に通っている方であれば両方の外来にそれぞれ通院することになるでしょう。ですが、地方ではそれでは不十分なのです。
大学時代、祖父が倒れたと家族から連絡が来たことがありました。糖尿病で毎月かかりつけに通いインスリンを処方してもらっていた祖父ですが、低血糖発作を繰り返すようになり、実はすでにその月で3度目だったそうです。次に帰省して祖父に会ったとき、祖父は私のことが認識できなくなっていました。いつの間にか認知症が進行していたのです。低血糖発作を繰り返したことで認知機能が低下したのか、それとも認知機能低下が先にあって適切な血糖コントロールができなくなったのか、今となってはわかりません。この後祖父の認知症は急速に進行してしまい祖母に手を上げるようになって、施設に預けるしかなくなったのですが、今でも家族は「もっと早くなんとかできなかったのだろうか」と口にすることがあります。複数領域の疾患でも同時に管理しなければならない、それが地方の医師に求められる医療なのだと痛烈に感じさせられた経験でした。
そんな経緯に加えてちょうど総合診療医が専門医として新設された頃でしたので、総合診療医を目指すのが良いのかなと思う一方、新設であるがゆえに制度も揺れ動いており、不安も感じていました。そんな折、初期研修のローテーションで岩瀬先生と出会い、私が理想とするような医療を同じように理想とする理念と、それを実現する具体的な方法論を持った緩和医療科に感銘を受け、入局を決めました。
-
仕事のやりがいを感じるときは?
お看取りのときです。患者さんやご家族の望む最期の時間のかたちを丁寧にすくい上げ、患者さんが痛みやつらい症状に苦しむことなく穏やかに旅立たれて、ご家族から「この病院で、先生に診てもらえてよかったです」とお言葉をいただけたとき、この仕事をしていてよかったなと思えます。
-
職場の環境はいかがですか?
ほかの職種との距離が近いのが特徴的な部分だと思います。他診療科からの併診の依頼の場合には看護師、薬剤師、栄養士を含めたチームで動くので、コメディカルの方々がどのような視点で患者さんを見てどのようなかかわり方をするのか、間近で感じることができます。患者さんの生活を考えるときは医師だけでは気づきにくいところも多いため本当に勉強になります。
それから、医師もコメディカルもですが、皆さん緩和医療科のスタッフだけあって相談に乗るのが上手いです。上司にもなんでも相談しやすい雰囲気ですし、医師同士では言いづらいことや答えが出にくいことはコメディカルが力になってくれます(恋愛相談なども含む)。なかなかこういった職場はないのではないでしょうか?個人的には、当院・当科の最大の強みだと思っています。 -
今後の目標を教えてください
私は大学院生ですので、短期的には自分の研究を形にすることです。今は訪問看護を導入した患者さんを対象に自宅でのADL(日常生活動作)を継続的にモニターすることで、救急搬送に至る前に「動けなくなってきているようだ」ということを検知して搬送を減らす研究をしています。また、長期的には地元山形県に帰ってここで研鑽した成果を還元したいと考えています。
-
入局希望者に向けて
メッセージをお願いします私たちが病院で見ている「患者さん」はその人の限られた側面に過ぎません。ひとたび病院から出れば、彼らは私たちの知らない仕事をし、私たちの知らない人々と会って話し、私たちの知らないところに人生の意味を持っています。医師の本当の役目は彼らが人生で成し遂げようとすることのために障害となる病を取り除き、あるいは抑え込み、時には上手く付き合う、その手助けをすることであると私は信じています。
もしもあなたがこの文章に共感してくださるのなら、埼玉医科大学病院の緩和医療科で得られるものは非常に大きいに違いありません。あなたと一緒に働くことができる日を、心待ちにしています。