Information

医局情報発信コーナー

白衣の羽〜医療の未来への旅〜
2024年08月27日

東大出向を終えて

カテゴリ: 日々の活動報告

皆さん、ご無沙汰しております。緩和医療科の山本航史郎です。 

7月と8月に東大救急・集中治療科に出向しておりました。今回はその経験についてお話ししたいと思います。

研究の関係もあり、私はまだ進路に悩んでおり、専門医プログラムには参加していません。ただ、救急や総合内科といった幅広い疾患を診ることができる科に興味を持っており、そのことを当科の准教授である岩崎先生に相談したところ、先生が以前東大で勤務されていたこともあり、東大救急・集中治療科であれば紹介してくださるとのことで、すぐに行かせていただくことを決めました。その後、教授をはじめ緩和医療科のスタッフや東大救急・集中治療科の皆さんの多大なるご協力のおかげで、7月から無事に東大での研修を開始することができました。

結論から申し上げますと、本当に行ってよかったです。臨床、研究、教育の順にその理由を説明いたします。 

臨床に関しては、これまで私が経験してきた環境とは全く異なりました。東大は救命救急センターで、三次救急を扱う病院です。埼玉医大も川越と日高は救命救急センターに指定されていますが、私が所属している毛呂は指定されておらず、初期研修先も二次救急病院だったため、三次救急の対応は初めての経験でした。それだけでも十分に勉強になりましたが、最も衝撃を受けたのはICUの規模でした。これまで多くても15床程度のICUしか見たことがありませんでしたが、東大では救命ICU(8床)、第1ICU(16床)、第2ICU(18床)と分かれており、ベッド数だけでなく、スタッフの数や設備の充実度など、これまでに見たことのない規模に圧倒されました。 

私は主に救命ICUを担当させていただきました。三次救急対応も難しかったのですが、最も苦戦したのはこの救命ICUでした。統括医師をトップに、5年目から6年目、3年目の医師がそれぞれ1人ずつ配置され、その下に研修医が3〜4人ついてICUを運営します。統括医師は救命ICU以外のICUも担当しており、基本的には5年目や6年目の医師が救命ICUのリーダーとなり、各スタッフに指示を出します。私は3年目の枠で参加しましたが、研修医時代に3ヶ月間ICUをローテーションしていたため、あまり心配はしていなかったものの、所属病院との勝手の違いもあり、思うように動けませんでした。思うように動けないもどかしさに加え、同期の3年目の専攻医の皆さんが本当に優秀で、自分が情けなく、これまで感じたことのない自己嫌悪に陥り、毎日本当に苦しかったです。しかし、この経験を通じて、自分の現状を見つめ直すきっかけとなりました。シフトごとにICUで少しでもできることを増やそうと決意し、結果的には満足できるような動きは最後までできませんでしたが、なんとか心折れることなく無事に乗り越えることができました。右往左往していた私に、いつも優しく教えてくださった東大救急スタッフの皆さんには本当に感謝しています。

次に研究についてです。東大は言わずと知れた日本トップの研究機関であり、実際に論文の引用数も日本で最多です。東大救急・集中治療科では専門医を取り終わったくらいで多くの人が大学院に進学します。当たり前のように思うかもしれませんが埼玉医大はそうではなく、大学院に進むことが文化として根付いていることに驚きました。勉強会や日々の臨床でも、教授の土井先生をはじめ上級医の先生方の質問や視点は本当に鋭く、それらは研究で培われたものではないかと勝手ながら想像していました。それに加え、日本一の研究機関として、ガイドラインに載っていない治療法や最新の医療機器の臨床試験が行われており、それを目にするだけでワクワクしました。また、大きな研究機関で働くことの重要性も学びました。少し話が逸れますが、研究に携わるようになり、想像以上に事務作業が多いことを知りました。具体的には、研究資金獲得のための申請業務や、倫理委員会や連携施設との調整など、多岐にわたる業務がありそこに多くの時間が費やされます。東大では、そのような事務作業を含めた研究者サポート体制が非常に充実しており、それも東大が日本一の研究機関である理由の一つだと感じました。

最後に教育についてです。東大では毎朝カンファレンス後に、5〜10分程度の勉強会が行われます。範囲は救急に関わる全分野で、医局員に担当が割り振られます。驚いたのは、この担当が准教授にも割り振られることです。東大に通い始めた当初は、准教授が勉強会を行う必要があるのかと疑問に思いましたが、准教授陣の質の高い発表を見学することで、発表に求められる基準が理解でき、全体の質が高まっていると感じました。勉強会後には必ず教授や准教授から鋭い質問が飛び交い、最新の知見や陥りやすいミスなども教えていただき、とても勉強になりました。

また、専攻医を対象に、虎の門病院の救急科部長である軍神先生と行う「GEM」と呼ばれる勉強会が毎週月曜日に開催されています。同じ救急の分野ですが、虎ノ門と東大では役割が異なるため、違った視点からのアドバイスをいただけることは非常に羨ましいことでした。私自身も一度担当させていただき、準備を含め非常に貴重な経験となりました。 

東大では研修医教育にも力を入れており、忙しい臨床業務の中でも、東大のスタッフのみなさんは時間があれば研修医に講義やベッドサイドで指導されていました。その上級医の姿勢に反応するかのように、研修医たちも積極的に質問をし、教育のサイクルが回っていました。東大では各科で勉強用資料が用意されており、様々な教育体制が整っていますが、その中でも興味深かったのは当直明けの振り返りです。当直中に対応した症例を一つ選び、ABCD評価に基づき、いわゆる救急診療の型に沿って振り返りを行います。型に沿って振り返りを行うため、最初は上級医の質問にうまく答えられなかったとしても、2回、3回と繰り返すうちに的確に答えられるようになり、何に注意して診察すべきかが理解できるようになります。その結果、研修医たちの実臨床での動きも変わってきました。

私自身、教育に興味があるため、東大での教育を学べたことは非常に大きな財産となりました。

この2ヶ月間、良いことばかりではなく、自分にとって非常に苦しい時期でもありました。身体的には、埼玉から東大への通勤、カプセルホテルでの生活、東大での研修後に埼玉医大での当直(人手不足のため)、精神的には、実力不足による自己嫌悪や医療スタッフからの冷たい対応など、挙げればキリがなく、本当に辛いことも多々ありました。それでも、そんな困難も気にならないほど、東大で得た経験はかけがえのないものでしたし、辛い経験も全てがんばるモチベーションに繋がっています。

最後になりますが、この2ヶ月間を無事に終えることができたのは、間違いなく周囲の皆さんのご協力があったからです。東大での研修を受け入れてくださった土井教授をはじめ、事務手続きから研修中もご配慮いただいた山本幸先生、そしていつも温かく迎えてくださった東大救急・集中治療科のスタッフの皆さんに、改めて感謝申し上げます。また、私が東大に出向するきっかけを作ってくださった岩崎先生、そしてスタッフ不足にもかかわらず快く送り出してくださった埼玉医科大学の岩瀬教授をはじめとする皆さんにも、この場を借りて感謝申し上げます。

2ヶ月間本当にお世話になりました。ありがとうございました。

(東大病院出向時 挨拶の日)

(東大病院入院棟 中庭)

ページトップへ戻る